“ハマるな危険”「就活生」がハマってしまう59の罠で語られている「罠」は具体的にどのようにはまっていくのでしょうか?
友達や先輩の言葉に惑わされて「罠」にハマっていませんか?
ここでは「よくある風景」として罠にはまっている就活生の一場面をご紹介します。
――竜也の一言もあり、たいちはエントリーシートの下書きを書くことにした。
たいち:
とりあえず今、この5枚が締め切りが迫っているESだな。
竜也:
へ~、エントリーシートって言っても色々あるんだな。Webで出せないの?
たいち:
Webで受け付けてくれるところもあるけど、やっぱり手書きのところは多いよ。
竜也:
修正がきかないものをいちいち書くのも大変だよな。どれどれ、どんなことを書かされるんだ?見せてくれよ。
たいち:
いいよ。ほら、見てみなよ。
竜也:
ほうほう。え~と、学生時代に頑張ったことは何か、弊社を志望する動機は何か。これが有名な志望動機か……ん?何だこれ……「自分らしさを表現する写真をコメントと一緒に載せろ」?
たいち:
それは出版業界のESだな。出版とか玩具とか、エンタメ関係の企業はヘンなこと訊いてくるんだよ。
竜也:
あー、個性を見てるってことなのか。他にも……ははっ、「宇宙、カンヅメ、イタリアの三語を使って400字の文章を書け」?なかなか面白いな、ES!
たいち:
だろ?そういう珍しいのは困るけど、頑張って書く甲斐があるんだ。けど、エンタメ業界でもない企業だと、やっぱりESにある質問は大体同じようなものばかりなんだ。
竜也:
あー、学生時代に頑張ったことと、志望動機か。まあそれはそうだよな。企業も漫才の才能を見たいわけじゃないだろうし。でも、そんなに質問が被ってるとなると、いざESを書く時はやっぱり……
たいち:
ああ、そりゃコピペさ。学生時代にやったことで企業にアピールできるものなんて限られているし、志望動機にしたって、業界が変わらなきゃ使いまわしよ。
竜也:
ま、そうするしかないよなぁ。時間は限られてるし、そうするしかないよな。
たいち:
ああ。でも、さすがに絶対に行きたい企業のESは気合入れてるぜ。見てくれよコレ。
竜也:
ああ……え?同じESが三枚……お前これ、一つの企業に三通りの志望動機を考えてるのか?
たいち:
ああ。何とか熱意が伝わらないか、色々と試行錯誤さ。
竜也:
しかも枠のギリギリまで文字が詰まってる。いやいやいくら何でも必死すぎだろ!
たいち:
いいんだよ。可能性があるなら何だってする。企業の人事も絶対に読んでくれるさ!!
さて、考えてみましょう。
例えば、大企業でエントリーシートが3000通来たとしたら、一枚1分だとしても、3000分=50時間掛かってしまう。
人事部も暇じゃないので、そんなに時間はかけられないし、やらされ感満載で、エントリーシートを見ている。
だから、人事担当者を「目覚めさせる」エントリーシートを書く必要があるのだ。
「枠に文字いっぱい」なんてものは、最悪です。。。
竜也:
たくさん書かれてるのもすごいけど、字にもこだわってるなあ。名前は太目の線で、志望動機みたいな文章は細めの線で描かれてるわ。わざわざペンを使い分けて書いてるのか?
たいち:
ああ、フリクションのペンを使ってる。生協の就活フェアで買ったのさ。
竜也:
あー、そういえばこういうSPIの問題集なんかも置いてたなぁ。ペンまで売ってるのか?
たいち:
うん。0.38、0.5、0.7の線の太さが違う3本のセットが一まとめで売ってる。というか、字によるペンの使い分けも生協の宣伝の通りに書いてる。もう完全に生協のいいお客様だよ。
竜也:
まあ、たまには生協の思惑にのるのもいいじゃないか。でも実際、フリクションのペンが使えるなんて思ってもみなかったな。消せるペンは企業が嫌うと思ってたんだけど。
たいち:生協が言うなら安心だよな!
フリクションは圧倒的に「薄い」、「清書」感がない。。。
人事部の方とお話しすると、中には「フリクション!と分かった時点で落とす」という方もいたくらい。
フリクションは自分の手帳用くらいに留めておいた方が正解です。
――竜也が、たいちが力を入れて書いたESを読んでいると、そこにたいちのゼミの担当教授がやってきた。
M教授:
おやたいちくん、もしや今度のゼミの準備をしているのですかな?感心、感心。就職活動も大事ですが、学生であるうちに学んでおくことは一生の財産になりますからな。
たいち:
申し訳ありません教授、実はこの紙は全部エントリーシート、つまり履歴書のようなものでして……あ、でももちろんゼミの準備もしていますから、安心してください!
M教授:
ははは、そんなに焦らなくてもいいですよ。この時期の学生は多かれ少なかれ、就職で忙しくしているものですからな。……しかし、気をつけてほしいものです。
たいち、竜也:?
M教授:
毎年というわけではありませんが、何年かに一人、いるのですよ。就職活動には成功して、私のような世間知らずでも知っているような大企業に内定を貰ったような学生が、卒業に必要な単位を取り忘れていて、内定を取り消されることが、ね。
竜也:
M教授!……あ、初対面で申し訳ありません、竜也です……しかし、本当ですか?本当にそんな人がいるんでしょうか。自分が今持っている単位状況は、その本人が一番よく知っているはずです。それを見誤ってしまうことなんてあるんでしょうか。
M教授:
ええ。ありますとも竜也くん。人間は時に非常に精神的に落ち込むことがあり、また時に非常に根拠もなく楽観的になることがある動物なのです。4年生に進学する段階で卒業までの単位数が厳しくても、ケ・セラ・セラ、何とかなるとなって思ってしまう。就職活動は夏までには終わるから、秋からの学期で残った単位を取ればいいと考えてしまう。しかしですね。大学4年生の学習は甘くはありません。なかなか研究が上手く進まないこともあります。卒業論文が思っているように上手く書けないこともあります。だというのに、学生最後の年だということで、遊びへの欲求は今までにないほど高まります。……たいちくん、私は就職に関してはコネもなにもありませんが、少なくとも、大学の単位をあげることはできます。きちんと私に、君のこの4年間の学習の成果をみせてください。
毎年、内定を獲得できたのに、卒業できない。。。という人が必ず出てきます。就活に没頭してしまう気持ちはわかりますが、卒業できなければ就職はできない。ということをきちんと意識しましょう。
たいち:
そうだ、M教授!僕が書いたESを読んでくれませんか?
M教授:
いやはやたいちくん、私には企業にコネも何もないと言ったばかりですよ?わかるのは自分の専門だけで、企業の面接官が求めるものは皆目わかりません。参考にはならないと思いますが……
たいち:
それでも、誰かの意見が欲しいんです。自分では気づけないこともあると思うので、ぜひお願いします。
M教授:
そこまで言われると、どうにも断れませんね。では、少し見せてもらいましょうか。どれどれ……なんと、一社に出す履歴書を三種類用意しているんですか。
たいち:
どうしても行きたい企業なので、力を入れているんです。
M教授:
なるほど、なるほど……
――M教授は眼鏡の位置を直しながら、黙々とESに目を通していく。一行一行、じっくりと時間をかけ、文章を行きつ戻りつ、読み進めていく。そして15分後、教授は全てを読み終えた。
たいち:
どうでしょうか。
M教授:
時間をかけてしまいましたが、非常に面白く読ませていただきました。三通りの履歴書のどれも非常に深く細かく、あなたのこれまでの経歴と、この会社を知ったきっかけ、この会社を志望する理由、この会社が抱えている問題、もし入社したらしたいことなど、非常に多くの様々な事柄が書かれていました。……これくらいの文章を書けるなら、今後のゼミでの発表も期待できるというものです。
たいち:
が、頑張ります……でもよかった。面白いって言っていただけると自信になります。これなら、人事の人も食いついてくれるかも……
M教授:
いえ、恐らくですが、人事の人には見てもらえないでしょう。
たいち:え?
M教授:
私にとっては非常に興味をそそられる重厚な文章でしたが、企業の担当者には見てもらえないでしょう。それくらいは、私にもわかりますよ。
企業の人事部の方が、何人ものESすべてに、この教授のように時間をかけて読んでくれると思ったら大間違い。
読みやすいエントリーシートはどういうものか?を考えてみよう。
――とある日、さとしはすでに内定を得ている太郎と合い、就活についての相談を持ちかけていた。
さとし:
なあ、もう少しお前の就活の話を教えてくれよ。だいぶ早くに終わったんだから時間は余ってるだろ?
太郎:
俺だってまだ一応就活終えたわけじゃなくて、まだ続けてるんだけどな……大体、経験って話なら俺は話せることはあんまりないぜ。嫌味みたいに聞こえるけど、ほとんど就活らしい苦労をしてないからな。もっと他の人に聞いてみたらどうだ?例えば……そう、お前の先輩なんかどうだ?
さとし:
先輩に話を聞く……つまり、OB訪問ってやつか。
太郎:
そうそう。お前のゼミやサークルの先輩にアポをとって話を聞くんだよ。いや、直接の先輩じゃなくても、大学の就職課に頼んで、希望業界の企業にいる先輩に会えばいいんだよ。それがいい!
さとし:
OB訪問か……実はしたことないんだよな。何を質問すればいいんだろう……
太郎:
いや、急に弱気になるなよ。さっきまであんなに食い気味でどんどん質問攻めにしてたのによ。
さとし:
さすがに会ったこともない社会人にお前を相手にするみたくグイグイいけるわけがないだろう。どうするかな……
太郎:
難しいこと考えなくていいんじゃないか?就活のことを聞きたければどんな業界を回ってたかとか、どんな軸で就活していたか訊く。今の仕事のやりがいは何かを訊く。そんなシンプルなもんでいいんじゃないか?
さとし:
言われてみれば確かに、それもそうだな……まあ、やって損になるものでもないし、試しにやってみるか!
まず、企業について自分の知りたいことを書きだし、HPなどを調べ、どうしても分からないことができた時に、OB訪問をする。何も考えずに、ふわぁ~~っと行くのなら時間のムダです。
――OB訪問をセッティングしたさとし。訪問当日、企業の昼休憩の時間を使って、訪問は始まった。
さとし:
改めまして、本日はお忙しい中、私のために時間を取っていただきありがとうございます。
社員:
いやいや気にしないで。僕だって後輩の訪問を受けれて嬉しいんだ。時間に限りはあるけど、今日は何だって答えるから、何だって訊いてよ。
さとし:
ありがとうございます!では早速……先輩がこの企業に入社するまでのいきさつが知りたいです。
社員:
あー、就活初めて内定貰うまでの流れか……いや、実は運がよくってさ。僕はそんなに苦労しなかったんだよね。
さとし:
そうなんですか?
社員:
うん。SPIはそれなりに準備をして切り抜けて、面接に進んで……さすがにどんな面接も受かったとは言わないけど、それでもこの業界にはどうも相性がよかったのか、最終的には大手も含む3社くらいから内定を貰って、で、悩んだ結果今の会社を選んだんだ。
さとし:
大手からも内定を?……あの、失礼ですが、先輩の会社は業界内では中小規模ですよね。どうして大手を蹴って今の会社を選んだんですか?
社員:
そうだね……中小企業の方がむしろ、面白い事業をやってることが多いからかな。今僕がいる会社も、決して規模は大きいところじゃないけど、仕事は大手がやってない特殊なことができるから楽しいよ。人の数も多すぎないから全社員の顔も覚えられて、人間関係もよくて、楽しいことが多いかな。
さとし:
そうなんですか……ためになります……
大手の内定も獲得した上で、あえて「中小企業の方が面白い」と自分の興味のある職業だと選択して就職することは素敵なことです。
ただ「先輩」というものは、後輩に「かっこつけたい」生き物だということも忘れないでください。